東名厚木病院

神奈川県がん診療連携指定病院

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鼠径(そけい)ヘルニア

2017年5月2日

当院において,当科は消化器癌や胆嚢結石症に対する待期的な手術や急性腹症に対する緊急手術のみならず,鼠径ヘルニアに対しても手術を行っております。これは決して稀なものではなく,中高年の男性によく見られる疾患です。今回は鼠径ヘルニアについて,Q&A形式で疾患の解説や当科における治療法を紹介致します。

Q1. 鼠径(そけい)ヘルニアとは?
A1. いわゆる“脱腸”です。

解説 鼠径部(足の付け根)が,立ったりいきんだりすると膨らんできて,痛みや違和感が症状として現れてきて気がつく方がほとんどです。稀に,腸がはまり込んで戻らなくなる(「嵌頓(かんとん)」)状態になり,腹痛,嘔吐で自覚されることもあります。男性の方に多く見られますが,女性の方にも見られます。小児と40歳以上の方に多く見られます。

Q2. 鼠径ヘルニアの原因は?
A2. 小児→胎生期の名残

    大人→鼠径部の組織の脆弱化

解説 小児と大人では若干異なります。小児の鼠径ヘルニアは発生段階の鼠径部の構造の名残(詳しくは鼠径部に存在する腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)という袋状の組織)への腹腔内蔵機の脱出であり,多くは成長と共に治癒します。様子を見ていても直らない場合は治療の対象となります。大人の場合は鼠径部の組織の脆弱化によって隙間ができることでそこから腹腔内臓器の脱出が起こります。加齢により体の組織が弱くなっていくことは何となく理解できると思われまずが,それによって鼠径ヘルニアになる人とならない人に分かれてくる原因は分かっておりません。残念ながら予防法はないと言われております。

Q3. 鼠径ヘルニアかな?と思ったら
A3. 外科を受診してください。ただし,症状によっては時間外でも受診が必要な場合があります。

解説 前述の症状が見られて鼠径ヘルニアが疑われた際は,“外科”を受診してください。腫れがひどく,発赤や疼痛,嘔気,嘔吐を伴う際は緊急を要する可能性があり,夜間や休日であっても受診をすることをお勧めします。脱出したものが戻らなくなった状態を「嵌頓(かんとん)」と言いますが,鼠径ヘルニアが嵌頓すると,大半の内容物が腸,特に小腸であることより腸閉塞となり,嵌頓した腸管がむくんで嵌頓した腸への血流が悪くなることより腸が壊死(えし)に陥り,穿孔して腹膜炎になってしまいます。たかだか脱腸と思っていても,嵌頓した腸が整復できず,命にかかわる可能性が生じますので,その際は問い合わせの上,時間を問わず受診をする必要性が生じます。緊急手術が必要になる場合もあります。

Q4. 鼠径ヘルニアの治療は?
A4. 手術のみです

解説 ヘルニアの構造は,ヘルニア門(出口),ヘルニア内容(鼠径ヘルニアにおいては多くが腸),ヘルニア嚢(内容が脱出した際に入り込む袋であり,解剖学的には腹膜)であることより,簡単に言ってしまえばヘルニア門(出口)を塞いでしまえば良いということになります。残念ながらこれを治療できる薬はないため,鼠径ヘルニアの治療法は手術のみとなります。(ただし,乳児の場合は成長によって治癒することも多いため,経過観察をしたうえでの判断となることがあります。また,小児についても麻酔との兼ね合いもあり,近年は専門施設での対応がほとんどとなっております。詳しくは小児外科のある病院へのお問い合わせください)かつては手術用の糸での補強(出口の縫縮など)を行っておりましたが,再発率と術後の違和感,疼痛などの問題があり,現在は医療用の人工物を用いた補強が主流です。これにより,低い再発率(0.5-2%)と少ない術後合併症の手術となりました。

Q5. 当院での手術方法は?
A5. 前方アプローチと腹腔鏡下手術があります

解説 前方アプローチとは,ヘルニアのある表面から切開する手術です。ほとんどの施設で行われている一般的な手術方法です。当院ではできる限りヘルニア門を裏側からから補強,閉鎖する方法を行っております(腹膜前補強)。また,症例によってはヘルニア門に詰め物を挿入し,前面を補強する方法(メッシュプラグ法)を行っております。また,当院では腹腔鏡下手術も積極的に行っております。傷が3カ所にはなるものの小さく目立たなくなることと,術後の社会復帰がやや早く見込める利点です。これについてはヘルニアの大きさや下腹部の手術既往の有無などで適応を判断しておりますが,適応のある方にはお勧めです。

Q6. 術後どれくらいで社会復帰が可能ですか?
A6. 手術当日から可能です

解説 日常生活レベルの動作は麻酔さえ覚めれば術直後から全く問題ありません。ただし,激しスポーツや腹圧が強くかかる重労働は,再発率を下げる観点から術後4週間は避けるよう指導しております。

外科科長 神山 公希

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